作家・英語教育研究家 晴山陽一オフィシャルサイト

インタビュー

■Q1. 英語教材の本を書こうと思われたきっかけは何ですか?


 本を作る仕事に憧れたのは、小学校5年の頃、『石川啄木』という伝記本を読んだ時にさかのぼります。「本を書く」ということ以上に、「本を作る」ということに強い憧れを抱きました(啄木は自分の本のカバーデザインまで手がけていましたから)。それで、大学卒業後、出版社に入り、まず英語教材の編集に携わりました。当時の中学教科書の内容がどうしても気に入らず、独力でイラスト付きの英文法の入門書を書き上げました。それが社長の目に留まり、「編集部編」という形で出版され、たちまち10万部を越えるヒットとなりました(この本は、後にニュートンプレスから『やさしいイラスト英文法』という書名で再刊されました)。私がまだ20代の頃の話です。ですから、30年ほども昔に、気がついたら英語教材を自作していた、というのが真相です。この本に寄せられた分厚い愛読者カードは、今でも私の宝物です。
 10年前に独立し、今度は自分の名前で本を書こうと思い立ちました。会社を辞める前にやっていたのが、大量のデータを作って「学習ソフト」に仕上げる仕事だったので、この時に執筆のための「持久力」がついたと思います。でなければ、独立後の10年間に休みなく70冊の本を書き続けることはできなかったでしょう。こうして考えると、20数年の会社勤めが、独立のための(長い長い)助走として役立ったと言えます。出版社で出版企画を立てる仕事を長くやっていましたので、作家になる前は企画を立てるプロでした。今は、まず企画を考え、アイディアが湧くと、「執筆部門の自分」に作業をさせるという、いわば"一人二役"の格好で仕事を進めています。
 子供の頃から「本を作る」ことに憧れていた私にとって、英語は最高の素材、つまり企画の宝庫なのです。私のパソコンの中にはいまだ出版されていない200ほどの企画が眠っています。

 

■Q2. 人生において、英語はどのような影響をもたらしましたか?


 またまた古い話で恐縮ですが、私は大学で哲学科を選び、アリストテレスに食らいつきました。3年間、難解な『形而上学』を読み続け、4年目にようやく視界が開けてきて、卒論を書きました。この時に、時間をかけて大きなものに食らいつく醍醐味を味わいました。
 英語は、私にとって時間をかけて大きなものに食らいつく価値のあるテーマのひとつとなっています。そうでなければ、10年間も英語を追い続け、いまだにちっとも飽きない、などということは考えられませんよね。
 大きなテーマを持ち、探求の結果を世に問うことで生活を成り立たせているのですから、私は世にも幸せな人間かもしれません。
 また、独立して本を書くようになって、私の交友範囲は会社時代の10倍に広がりました。これは、英語が私に贈ってくれた最大のプレゼントと言えるでしょう。

 

■Q3. 本を執筆中に、何か特別な方針をお持ちですか?

 本の執筆は、料理に似ています。おいしい料理を作るには新鮮な食材を集めることが必須なのと同様、英語本を書くには、生きのいい学習素材をそろえることが何より大切です。
 私は10年前に会社を辞しましたが、まず最初にやったことは、30冊ほどの英米の引用句辞典とことわざ辞典を買い揃え、端から読むことでした。気に入った句にマークを付け、それらを集めてテーマ別にまとめると、半年後には膨大な「英文ファイル」が出来上がりました(これも大きなものに食らいつく、という一例かもしれません)。
 なぜ、そんな一見遠回りの作業を行なったかと言うと、本を書きながら例文探しをしていたら、執筆など進むものではないと直感的に考えたからです。いい素材が集まっていないのに無理に書けば、内容の薄い無味乾燥な本になってしまいます。
 かつて出版社で教材編集をしていた時に、教科書や参考書に感じた不満は、まさに「素材が面白くない、だから読んでいて白けてしまう」という点だったのです。
 ですので、執筆のための「第一の方針」は、良質の素材を集めて、「例文の倉庫」を作るのが先決、ということでしょうか。今も、本を書きながら、同時に倉庫の増築に余念がありません。
 この良質の素材を集めるコツは、あくまで「自分にとって面白いかどうか」で判断する、ということです。この方針を貫く限り、素材集めに飽きるということはありません。また、よい素材を集めれば集めるほど、それを使った本の企画も自然に湧き出してくるのです。言い方を変えると、まず自分が英語を楽しまなければ、絶対に人を楽しませることはできない、ということだと思います。世の中には、「こんなに辛い思いをして書いています」というスタンスの執筆者が多すぎます。

 

■Q4. 執筆の中で、最も楽しい作業は何ですか?

 最初に書きました通り、私は「本を書く」こと以上に「本を作る」ことに興味があります。「本を作る」のは、自分ひとりではできません。編集者、校正者や校閲者、デザイナー、あるいは営業担当の方たちを巻き込んでの共同作業の結果が、1冊の本として結実するのです(営業の方が最終タイトルを決めるケースだってあります)。ですから、最も楽しいのは、執筆を終え、それが本の形に向かって動き出すのを見守るプロセスだと言えるでしょう。私にとって「脱稿」は本を作る上でのプロセスに過ぎません。
 どんなに上手く書いたとしても、活字が小さすぎては読むことはできません。レイアウトが下手でも、読者を楽しませることはできないでしょう。ですから、私は「仕上がりを予想しながら書く」のがとても楽しいのです。このような気持ちで書いていれば、執筆は決して孤独な作業ではなくなります。楽しんで書いた原稿は、編集者、デザイナー、そして読者へと楽しみが伝染していきます。
 本を作ることに慣れていない人は、書くだけでアップアップになりがちです。ともすると、「書き終える」ことが最大目標になってしまう。そのような書き方では、とかく読者不在の原稿になりがちです。読者の喜ぶ顔を思い浮かべながら「にやにやしながら書く」のが、いちばん執筆のモチベーション・アップにつながります。ちょうど、人を驚かすいたずらをして、その人が驚くのを待っている時の子供のような心境です。そんな気持ちで書いた本は、必ずいい結果をもたらしている、というのが私の実感です。
 「最も楽しい作業は、作業そのものを楽しくすることだ」と、私は言いたかったのです。

 

クリストファー・ベルトン氏によるインタビュー(2007年11月)