作家・英語教育研究家 晴山陽一オフィシャルサイト

『英語らしい発音は、音読でこそ身につく。』(アスク出版) 序文より

■はじめに■ 英語は、発音よりリズム!

 本書は、私の初めての「音読」の本です。
 最初に、この本を書くにいたった経緯をお話しします。
 3年ほど前、私は『耳から覚える英単語』という、120本のビデオ講座の収録を行ないました(この講座は、全国各地の予備校や塾で利用されています)。収録中は撮影スタッフから「ネイティブみたいな発音ですね」などとおだてられ、その気になって最後まで収録したのですが、出来上がった製品を見て(聞いて)、気づいたことが2つありました。第一は、ときどき子音の発音が聞き取りにくいこと。第二は、間違えて読むことを恐れるあまり、英文が棒読みになっている箇所があることです。
 「こんなことなら、事前に「音読練習」を積んでから収録をすればよかった」とつくづく思いました。そこで、次にこのような機会がめぐって来る前に、自分の発音をなんとかしておこうと思ったのです。では、何を教材に選ぶか。
 私は、いちばん記憶に残っている英文、すなわち、自分の著書に付いているCDを端から聞きなおし、それぞれのナレーターの顔を思い出しながら、「彼(彼女)は、この英文をこんなふうに発音していたのだな」と確認しつつ、音読練習を続けました。
 それらの本で使われている英文の多くは、親友の英国人作家、クリストファー・ベルトンさんに書き下ろしてもらったものです。こうして、音読練習を続けるうちに、今度は次のような思いが湧いてきました。それは......
 「ベルトンさんの英文は、どれもリズミカルで無駄がなく、最高の音読教材となりうる。これだけの素材を手元に豊富に持ちながら、これを多くの人に開放して音読テキストを作らない手はない!」という思いでした。
 たとえば、次の3つの英文を付属のCDで聞いてください。

1. Have you ever wondered why the sky is blue?
   空がなぜ青いのか不思議に思ったことはありませんか。
 
2. Walking on the grass is breaking the rules.
   芝生の上を歩くのは規則違反だ。
 
3. She taught her children to be kind to others.
   彼女は子供たちに人に親切にするように教えた。

 どれも口調がよく、思わず音読したくなる英文だと思いませんか。
 本書の英文はすべて、このように強く読む部分を太字で印刷してあります。これが、実はこの本の最大の特徴です。この点を説明しましょう。
 本書は、次のような考えに基づいて書かれています。すなわち、「英語の発音は、個々の母音や子音の練習も大事だが、それ以上に、英語特有の強弱のリズムが何より大事だ!」 という考えです。本書のすべての英文は、この「強弱リズム」を身につけるための素材です。ですから、CDをお手本にして、太字の箇所を強く読むだけで、どんどん「強弱リズム」が身につき、英語らしい発音になっていきます。
 多くの日本人は、個々の発音の練習は一生懸命するのに、相変わらず日本語ふうの棒読みのままです。これは、英語の発音でいちばん大切なのは「強弱リズム」であるということを知らず、そのための練習をまったくしていないためなのです。英語は、この「強弱リズム」に乗せて、自分の思いを相手に伝える言語です。 個々の単語を正しく発音するだけでは、意味は伝えることはできても、自分の本当の思いを伝えることはできません。
 このような考えに基づき、私は"思わず音読したくなる英文"だけを選りすぐってこの「音読ドリル」を編みました。本書を縦横無尽に使って、あなたがネイティブ発音に一歩でも二歩でも近づくことを願ってやみません。この本のすべての英文は、ベルトンさんからあなたへの、とっておきのプレゼントなのです。

 


■INTRODUCTION■ 「音読」は最高の英語学習法!

■あるジョーク
 ご存知の方も多いと思いますが、日本人の英語発音についての有名な英語のジョークがあります。とてもやさしい英文なので、読んでみてください。

 The other day the Japanese Prime Minister made a speech in English at the United Nations in New York. Right after the speech one representative from Europe said,"I didn't know that the Japanese language is so similar to English."
 先日、ニューヨークの国連本部で日本の首相が英語で演説をした。スピーチが終わるやいなや、あるヨーロッパの代表が言った。「日本語がこんなに英語に似ているとは、知りませんでしたなぁ」

 日本人の英語が、外国人には「日本語にしか聞こえない」ことを笑いの種にしたジョークです。
 では、なぜ日本人の英語が日本語にしか聞こえないかと言えば、それは英語のリズムで話されていないからなのです。 そのことに気づかず、たとえ必死に発音をよくしても、リズムが直らない限り、英語らしい英語には聞こえません。これが、多くの日本人の英語が通じない主原因なのです。
 よく「カタカナ発音が、日本人の英語が通じない元凶だ」と言われますが、カタカナ発音には一定のルールがあるので、それに慣れれば聞き取ることはさほど難しくないようです。逆に、いかに発音がよくてもアクセントやリズムが違えば英語には聞こえません。 こちらの問題のほうが、ずっと大きく、根が深いのです。
 英語のリズムを身につけるための教材はほとんど皆無なので、この大問題はずっと放置されたままになっています。私が本書を編むことにした最大の理由は、ここにあります。つまり、この本は音読によって、「英語のリズム感」をつける本なのです。


■2種類の英語学習法
 さて、多くの英語学習者が、
「こんなに勉強しているのに、英語力がついた感じがしない」
「いざ話そうとすると、英語が口から出てこない」
という悩みを持っています。
 なぜ、時間と労力をかけても、思うような結果を得られないのでしょう。

 英語の学習法は、大きく分けると2種類あります。
 1番目の方法は、「目」と「頭」を重視した学習法 で、単語を覚え、文法書を読み、ドリル練習を重ね、力試しに英文を読むというやり方です。この学習方法をとる人は、書かれた英語を理解することは上達しますが、いつまでたっても話すことは苦手です。なぜなら、「口から英語を出す練習」をほとんどしていないからです。口が「英語を話すこと」に慣れていないのです。話すことのできない人は、概して書くことも苦手です。

 2番目の方法は、「耳」と「口」を重視した学習法です。この学習法をとる人は、英語の音を聞くことに非常に熱心ですが、「耳」と「口」を結びつける練習を効果的に行なっている人は少ないようです。詳しく説明しましょう。
 「英語は耳から学習するのがいちばんだ」とよく言われます。これを100%真に受けて、朝から晩まで英語を聞き続けている人がいます。しかし、ただ聞き流しているだけでは、英語は話せるようにはなりません。「 聞き流す」のは受動的な作業であり、話すのは、きわめて能動的な作業だからです。
 しかし、「聞くのはやめて、話す練習をしなさい」と言われ、やみくもに話そうとしても、急にはうまくいきません。話したい話題があっても、話す相手がいないと実際に話すことはできないからです。
 そこで、「 聞くこと」と「話すこと」を橋渡しする練習がどうしても必要になります。それこそが「音読」なのです。
 私が本書を書こうと思ったのは、音読練習を通じて英語のリズムを身につける教材が是非とも必要である、と切実に考えたからです。本書では、耳から聞いた英文を即座に口から出す練習をしやすいように、英文は2回ずつ収録してあります。音声だけでも学習できるので、通勤や通学の途上でも音読練習をすることが可能です。


■音読のどこがすごいのか?
 本書が生まれた背景を、もう少し説明しましょう。
 昨年の5月に、私は『英語ベストセラー本の研究』(幻冬舎新書)という本を出しました。この本を書くために、私は戦後60年間のベストセラー英語本を10年刻みで選び出し、それらがなぜ何十万、何百万という読者に熱狂的に読まれたのかを分析しました。扱った本は23冊ですが、目を通した本はその倍以上にのぼります。
 さて、その23冊の中で最も強烈な印象を与えたのが、『國弘流 英語の話しかた』(たちばな出版)という本でした。この本の著者、國弘正雄は"同時通訳の神様"の異名を持ち、その「只管朗読」(ひたすら音読すること)という造語は、日本の英語界に計り知れない影響を与えてきました。
 國弘先生は著書の中で、音読を繰り返すことにより、「英文をひっくり返さずに頭から順に読んで意味がわかる」状態、すなわち、「日本語が頭に浮かばないのに、意味がイメージとして実感できる」 状態になると主張しています。彼自身は、中学生の時に、教科書を実に500回から1000回も音読したというのです。この愚直なまでの練習が、のちの"同時通訳の神様"を生んだと言っていいでしょう。
 ひとつ具体的な例文で考えてみましょう。たとえばここに、I think you know I love you .という短い英文があるとします。直訳すると、「私があなたを愛していることを、あなたが知っていると私は思う」となりますが、この日本語訳は英文の流れとはまったく逆行しています(そして、きわめてわかりにくい!)。しかし、國弘流に言えば、先の英文は、あくまで、I think→you know→I love you.の流れで理解しなくてはならないのです。音読を繰り返すことにより、それが可能になると彼は主張します。
 あなたも試してみてください。I think you know I love you.という文を、目をつぶって5回、10回と音読していくうちに、必ず日本語訳を離れて意味を受け止められる状態になります。この、日本語を離れても意味がわかる、という状態をつかむと、英語は一気に身近なものになります。
 英語の勉強は、日本語に訳すのが目的ではなく、英語の語順のままに理解することが目的なのです。この目的を達するために、國弘先生は何よりも「ひたすら音読すること」を勧めた、というわけなのです。
 意味を正確につかむためには、単語や文法の知識が不可欠です。しかし、ほとんどの人は意味が取れたところで(訳せたところで)学習を終えてしまいます。ですが、本当の学習はそこからスタートするのです。10回、20回と音読することにより、理解した英語を体に落とし込んでいくことができます。体に染み込ませた英語をどれだけ蓄積するかが、英語を話せるようになるかどうかの分かれ目なのです。
 音読を繰り返すことにより、それまで英語との間にあった日本語というフィルターがどんどん取れてなくなっていきます。これが、音読練習のすごいところなのです。


■英語の命は「強弱リズム」
 「はじめに」でも述べたように、英語で何より大事なのは「強弱のリズム」です。これは、「内容語」と呼ばれる《名詞、動詞、形容詞、副詞》を強く読み、その他の冠詞や接続詞や前置詞などを弱く読むことから、自然に生まれるリズムです。すべての英文は、このリズムに乗せて意味を表すのです。
 英文法で習う「5文型」も、実は「強弱リズム」と深い関係があります。「 5文型」とは、強く読む内容語(名詞、動詞、形容詞)をどのように配列するか、というパターン分類に他ならないからです。
 例を示しましょう。ここに、第1文型(S+V)、第2文型(S+V+C)、第3文型(S+V+O)の英文があります(本文の中から選びました)。太字の部分を強く読めば、それがSやVやCやOに該当する単語(=内容語)であることが理解できると思います。音読してみてください。

1. Dogs bark at strangers.(S+V)
    犬は見知らぬ人に吠える。
3. He felt insulted by her words.(S+V+C)
    彼は彼女の言葉に侮辱された気がした。
2. My software needs upgrading.(S+V+O)
    私のソフトウェアはアップグレードの必要がある。

 このように「5文型」の話というのは、実は、いかに「強弱リズム」を使って意味を表すか、という英語の根幹にかかわる話だったのです。
 この英語特有の「強弱リズム」については、本文で詳しく説明します。また、すでに書いたように、本書のすべての英文は強く読む部分を太字で示し、「強弱リズム」を身につけるための素材になっています。 本書を通読すれば、英語の発音の仕方を学びながら、同時に「強弱リズム」を骨の髄まで染み込ませることができるのです。

 最後に、私の「英語発音」についての考えを、もう少し補足しておきます。
 本書の第2章「音の変化」では、音の弱化、リエゾン、フラップt、飲み込む音(tが消える現象)、消える子音(語尾の音の消失)の順で、とくにアメリカ英語に特有の現象を多く解説し、それらを音読練習できるようにしました。これらは、 アメリカ人の発音を聞き取る際に有効なので取り上げましたが、必ず日本人がマネしなければならないわけではありません。
 たとえば、waterを「ワーラ」のように発音する「フラップt」はアメリカの南部に根強いなまりであり、日本人のぎこちない発音の中に挟み込むと、かえって違和感を生じる場合があります。発音に関する書物の中には、ネイティブが皆このように発音しているかのような記述をよく見かけますが、「ネイティブ」という言葉が何を指すのかきわめて不明確です。一般に、ネイティブ発音を「カタカナ表記」して、日本人の発音を矯正しようとする本には、このような行き過ぎや偏向が多く見受けられるようです。
 これらも含め、私は、個々の発音よりも「強弱リズム」のほうがはるかに重要だと考えるわけです。イギリス英語だろうとオーストラリア英語だろうと、「強弱リズム」だけは英語の根幹にあります。 まずは英語のリズム感を身につけましょう。それがいちばん確かな英語への道だからです。
 読者が本書をテキストにして、英語らしい英語発音を身につけられることを心から願っています。
 英語を英語の語順のまま理解できるまで(日本語を離れて意味がイメージとして理解できるまで)、音読してみてください。I think→you know→I love you.の要領です。そうすれば、知らず知らずのうちに英語のリズムが体に染み込み、一生離れないようになるでしょう。もう「日本語は英語に似ている」なんて、誰にも言わせません!
                                                                            以上、同書の序文を抜粋しました。