作家・英語教育研究家 晴山陽一オフィシャルサイト

英語CDの選び方

■CDのナレーションには3つのタイプがある
 英語学習に使えるCDのナレーションには、大きく分けると、棒読みタイプ、会話タイプ、語りかけタイプの3種類があります。通常学習用に使われるのは、「棒読み」と「会話」のふたつです。これは、TOEICテストや英検やセンター試験のリスニングが「原稿の棒読み」と「会話」から成り立っていることを反映しているのでしょう。特に最近は、ニュースや新聞記事の聞き取りがCD教材の主流になっています。
 しかし、テレビの日本語ニュース番組を見ればわかりますが、ニュースというのは、わざと感情を抑え、一本調子で読まれます。このようなナレーションを音声だけで聞き続けるのは、よほど内容に興味がない限り、耳に対する負担が大きく、長時間続けることは困難です。英語ならなおさらです。
 「棒読み」タイプの英語を聞き取ることがリスニングだと思い込んでいる読者は、もしかしたら、知らぬ間にTOEICなどの試験に毒されているのかもしれません。そのような方に、ちょっとお尋ねします。次のような日本語を日常生活の中で耳にすることはありますか。
「人は誰でも生まれながらにして何らかの才能を持っているが、問題はそれを見つけられるかどうかだ」
 もしも、このような日本語を人前で棒読みで言う人がいたら、相当な変人と思われても仕方ないでしょう。それほど「例文の棒読み」は不自然な作り物であり、現実の世界とはかけ離れたものなのです。
 今の日本語を英語に直すと、Everyone is born with a talent. The question is whether they can find it or not. となりますが、もしも実際の会話の中でこの英文が使われるとすれば、それは才能について熱のこもった議論をしている場合であり、棒読みではなく、抑揚をつけて感情豊かに話されるはずです。それこそが生きた英語なのです。
 試験のリスニング用に使われる英語は、日常生活では「ありえない英語」なのです。それは、書かれた文字を機械的に音にした英語であり、自分の思いや感情を人に伝える英語ではありません。その作り物の英語を聞き取る練習を、みなさん必死になさっているのです。私の言いたいことが、少しはおわかりいただけたでしょうか。

 文字中心の学習で行き詰まりを感じている人に最適なのは、実は「語りかけ」タイプの音声です。つまり、一般聴取者に向けて読まれる音声ではなく、あなたに直接語りかけてくる音声。言ってみれば、われわれが子供だった頃に親や先生が読んで聞かせてくれたような「語りかけ」が最も学習効果が高いのです。
 「会話」のCDもある程度感情を伴って読まれますが、聞いているわれわれに語りかけてくるものではありません。やはり、こちらに向かって語りかけてくる音声にはかなわないのです。

■語りかけタイプのCD
 では、「語りかけ」の英語が聞けるCDとは、どういうものでしょう。私自身が最も気に入っているのは、次のものです。

 Curious George the Complete Adventures Deluxe Book and Cd Gift Set(Houghton Mifflin)

 これは、「おさるのジョージ」シリーズの代表作7冊を合本にした絵本とCD5枚のセットです。アマゾンで購入すると、税込みで約3,500円と一見高価に見えますが、7で割ると一話分は500円ほどであり、おまけにCDも付いてくるので大変リーズナブルな値段であることがわかります(分冊で買うとCDなしで1冊800円以上します)。
 付属のCDは一話ずつナレーターが変わるので、いろいろな話し手の英語を聞くことができます。日本人がいちばん苦手な「緩急のリズム」や「抑揚」が強調された読み方なので、とても勉強になり、耳にも残ります。このCDを真似て、自分も絵本のナレーションができるようになれば、それが「音から入る英語学習」の理想形ではないでしょうか。
 このように、単に「音から入る」というだけでなく、「英語の音で耳を楽しませる」という学習法なら、勉強そのものが楽しくなるので一石二鳥です。
 この他、「語りかけ」タイプのCDでは、子供用の絵本の名手、アーノルド・ローベルが自作を朗読したものなどもお勧めです。私は代表作四冊が収録されたCDをよく聞いています。作者がいかに自分の作品を愛しているかが、ひしひしと伝わってきて、心が温まります。

 Frog and Toad: Audio Collection(Harper Children's Audio; Unabridged版)

 また、自分はイギリスの作品のほうが性に合うという方なら、

 A.A. Milne's Pooh Classics: Winnie-the-pooh/ the House at Pooh Corner/ When We Were Very Young/ Now We Are Six  (Blackstone Audiobooks; Unabridged版)

 がお勧めです。定価は2,600円ほどで、CD8枚に「クマのプーさん」シリーズの4冊がすべて収録されています。おまけに、著者の息子で、このシリーズの主人公でもあるクリストファー・ロビン氏公認の朗読CDなのです。
 いろいろ実例をあげましたが、私が言いたいのは、「英語に疲れたら、他ならぬ英語で心を癒す方法がありますよ」ということなのです。英語を学習の対象ではなく、耳を楽しませる道具(おもちゃのようなもの)として見直していただきたいのです。
 あなたは責め苦のようにして英語を聞いていませんか。

■文字から音が流れ出る!
 よくCDは100回聞けとか音読は100回しろ、と言う人がいます。まるで「100回」というのが呪文のようです。でも、なぜ100回なのか(50回ではいけないのか)と問われると、おそらく明快な答えは出てこないでしょう。口調がいいから「100回」と言ったにすぎないのです。では、本当は何回をメドに聞いたらいいのか(読んだらいいのか)という問題ですが、私の体験から、この問いにお答えしたいと思います。
 私はベストセラーとなった『英語耳』で推薦されていたカーペンターズのCDを買ってきて、毎晩聞いていたことがあります。ベッドに入ってから聞いていたので歌詞は見ませんでした。おそらく50回くらい聞いたあとだったと思いますが、正確な歌詞が知りたくて歌詞カードを広げ、音読を始めました。すると、文字を追うに従って、カレンさんの歌声が聞こえてくるのです。文字から音が流れ出るという体験は初めてだったので、びっくりしました。
 ですから、何回聞けばいいか、という問いに対する私の答えは、「文字から音が流れ出るまで」ということになります。それは人によって異なるでしょう。10回の人もいるかもしれないし、中には50回の人もいるかもしれない。だから、十把一絡げの「100回」というのは、物事の本質を捉えそこなっていると思います(もちろん、少しでも多く繰り返したほうが定着度は上がるとは思いますが......)。
 音読の回数も同様です。盲目的に「100回」を目指す前に、目標を定めるべきだと思います。第一の目標は「ゆっくりでもつっかえずに正確に読める」段階でしょう。  おそらく10回か20回でそのレベルに達すると思います。その次の目標は「より速く読める」段階です。この目標には個人差があると思いますが、たとえば、1分間に150語が目標だとしたら、その目標をクリアするために、さらに10回か20回練習を繰り返す必要があると思います。
 「語りかけ」タイプの音源を聞く回数は、これでおわかりいただけましたね。スクリプトを見て音読した時に、耳に残っている音が文字から聞こえてきたらしめたものです。
 先ほどはカーペンターズのCDで説明しましたが、私は「文字から音が流れ出る」体験を、その後ふたつの音源でも経験しています。
 ひとつは、最近ちょっとしたブームになっている「英語落語」です。これは、まさに「語りかけ」の極致と言えるでしょう。私が愛好しているのは、『英語落語で世界を笑わす!』(大島希巳江他著、研究社)に付いているCDの中の大島氏の『権助魚』の実況です。これはマレーシアで行なわれた実演の録音ですが、彼女のバイタリティあふれるパフォーマンスにはほとほと感心します。そして、私の耳にはいつでもそれが響く状態になっています。この状態になるまでに、やはり30回くらい聞いているでしょうか。
 もうひとつの音源はジョークです。これも「語りかけ」の典型例ですね。こちらは適当な音源がほとんどありませんが、『簡単ジョークでリスニング』(ヴィッキー・グラス著、学習研究社)付属のCDには、50ほどのジョークが収録されています。ジョークの場合は、聞き覚えたら実際の会話で使えるという大きなメリットがあります。その場合、ジョーク集の頭から順に覚える必要はありません。いちばん気に入ったものから覚えたほうが、実際に使える可能性も高まると思います。先ほど言及した大島氏の『権助魚』でも、聴衆を引き付けるためにジョークが使われていて、何度も大爆笑を引き出しています。

■会話タイプのCD
 「語りかけ」タイプのCDについてあれこれ書いてきましたが、このタイプのCDで英語の音を聞く楽しみを覚えたら、他のタイプのCDも楽しめるようになります。順番から言うと、「棒読み」よりも「会話」タイプのほうが、抵抗なく聞くことができると思います。
 たとえば、語彙を増やしたいなら、『英単語・熟語ダイアローグ』(旺文社)シリーズの2冊は、すべて会話体のCDで学習できます。
 私がいちばん気に入っているのは、『NHKラジオビジネス英会話 土曜サロン・ベストセレクション』(馬越恵美子著、DHC)です。著者の馬越さんと英国人記者ポール・ジャクソンさんの息の合ったかけあいは、何度聞いても飽きません。リアルな会話をCDにしたものは少ないので、これはとても貴重な音声教材です。
 また、異色の対談CDとしては、神田昌典氏の著書『お金と英語の非常識な関係』(フォレスト出版)の上巻に付いているCDがあります。これは、著者とウィリアム・リードさんの対談がそのまま収録されたCDで、自分の英語力を惜しげもなくさらけ出した神田氏の勇気には脱帽するしかありません。ネイティブ並みの発音ではないにもかかわらず、緩急取り混ぜた巧みな話術で見事にリードさんをリードしています。
 同書の中で、神田氏はビジネス英語を使いこなすための大胆な方策として、

1.日常会話を捨てる
2.専門外のトピックを捨てる
3.単語力を増やすことを捨てる
4.文法的に正しく話すことを捨てる
5.ペラペラしゃべることを捨てる
6.キレイな発音を捨てる

 の6原則を掲げていますが、これらのモットーを自ら実演してみせているのは、なかなか真似のできることではありません。

■棒読みタイプのCD
 「棒読み」タイプのCDの場合は、読むスピードによって難易度が変わります。いきなりナチュラル・スピードの教材を選んでしまうと、ストレスの元になりかねないので注意が必要です。最初は、日本語も吹き込まれている本を選ぶと抵抗が少ないかもしれません。
 たとえば、少し前に話題になった『ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100』(竹内広信著、講談社)は、100個の例文が、《日本語→男性の英語→女性の英語》の順で吹き込まれています。何度も聞き込むと、日本語を聞いただけで英文を予測できるようになり、しかも、二度目の英語で確認もできて、なかなか便利です。実は、先ほどの「才能」に関する例文は、同書から引用させていただきました。
 『速読速聴・英単語』(松本茂監修、増進会出版社)シリーズあたりは、ニュースや記事の「棒読み」ですが、ナレーションの速度がそれほど速くありません。ナチュラル・スピードをうたってはいますが、私が測ったところでは、「Core 1800」の巻で1分間に150ワードくらいでした。
 「棒読み」のCDに慣れた人は、最後にもっと速いスピードのCDに挑戦するとよいと思います。たとえば、『キーフレーズ式 英字新聞はこうすればどんどん読める』シリーズ(DHC)だと、1分間に180ワードくらいの、容赦のないナチュラル・スピードで吹き込まれています。
 逆に、最初からナチュラル・スピードはきついと思う方は、『イギリス英語のリスニング』(C・ベルトン著、DHC)あたりから入るといいでしょう。カバーに「ゆっくりだから聞き取れる!」と書かれており、一分間に100ワードと明記されています。
 私があえて具体的な書名を挙げてお話ししたのは、同じCD教材と言っても、内容やスピードにいろいろなタイプがあり、学習の順番を慎重に選ぶ必要があると考えているからです。
 このコラムを読んでいる人の中には、英語学習の閉塞状態を打破しようと考えている方が少なからずおられると思います。そのような方は、無味乾燥な「棒読み」CDをちょっと脇に置き、「語りかけ」や「会話」CDで、まず耳の抵抗感をなくすことをお勧めする次第です。楽しくない学習を続けるのは苦痛ですから。

 (『使える英語 すごいノウハウ』 三笠書房刊より)