作家・英語教育研究家 晴山陽一オフィシャルサイト

訳せない英語がある!

 英文の中には、正確に日本語に訳すのが難しいものがあります。意味はわかるのに訳せない場合は、英文の表す事柄を直接「イメージとして捉える」しかありません。
 例をあげましょう。次の英文は、マーク・ピーターセン教授の書いたベストセラー『日本人の英語』の中に出てくるものです。

  In April, I introduced a coach of my tennis club to an ex-wife of my brother, and by June the two were already married.

 この英文の最も一般的な訳は、次のようなものでしょう。
「4月に、私のテニス・クラブのコーチを、弟の離婚した妻に紹介したが、6月になったら、2人はもう結婚していた」
 試験でこの英文が出題されたとても、この訳文で点は取れると思います。しかし、この優等生的な訳文では表しきれていない事柄が、先の英文には含意されています。それは、何でしょう?
 もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、それは、不定冠詞 a/an が意味している内容です。
 まず、a coach of my tennis club は正確に訳せば、「私のテニス・クラブの何人かいるコーチうちの1人」となります。もしも、a ではなく the が使われていれば、コーチは1人だけに特定されます。
 また、an ex-wife of my brother は「弟の離婚した妻のうちの1人」が正確な訳であり、もしも、an ではなく the が使われていたら、弟の別れた妻は1人だけということになります。ついでながら、「弟」は「兄」かもしれませんが、この点は深く追わないことにします。
 したがって、先の英文の正確な和訳は、「4月に、私のテニス・クラブのコーチの1人を、弟の離婚した妻の1人に紹介したが、6月になったら、2人はもう結婚していた」となりますが、通常の和訳ではここまで要求されませんし、いちいちこのように不定冠詞 a/an を正確に訳し出していたら、とても読みにくい日本語になってしまいます。
 つまり、英文には日本語に訳せない部分がある、と私は言いたいのです。このような、冠詞の使い分けは、訳す以前のところで「含意するところ」を感じ取るしかありません。訳すのではなく、英文から直接イメージするしかないのです。
 このように、「英語をイメージで捉える」練習は、実は英文を正確に受け止めるためにも必要な訓練なのです。例題を1題出して、この稿を終わりにしましょう。次の英文の表す内容をイメージしてください。

 This morning, a plane crashed near Narita and the pilot was killed.

 a plane とありますから、空を飛んでいた飛行機が1機だけではなかったことがわかります(これは当然ですね)。次に、the pilot とありますから、墜落した飛行機を操縦していたパイロットが亡くなったことがわかります。おそらく乗っていたパイロットは1人だけだったと思われますから、あまり大きな飛行機ではなかったのでしょう。どうですか、あなたは正確にイメージできましたか。もしも the pilots were killed と複数だったら、「乗っていたパイロットは複数いて全員が死亡した」という、さらに大規模な事故が予想されます。
 私が言いたかったのは、日本語に訳せない内容は、聞いたとたんにイメージするしかない、ということなのです。このことを、國弘正雄氏は〈英語→イメージ→日本語〉と図式化しています。〈英語→日本語→イメージ〉のように、日本語に訳さないと英文の意味をつかめないという人は、訳さずにイメージする練習をお勧めします。聞く場合も、読む場合も、意識的にイメージ先行を心がけてください。聞いたとたん(読んだとたん)に、映像化しながら聞く(読む)のがコツです。なぜなら訳したあとの日本語が表す映像と元の英文が表す映像には、多くの場合ズレがあるからです。